レーザー兵器の事例と将来【自衛隊応援クラブ第33号】 一般社団法人DSC 自衛隊応援クラブ

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レーザー兵器の事例と将来【自衛隊応援クラブ第33号】

会報誌

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2023-5-10

レーザー兵器の事例と将来【自衛隊応援クラブ第33号】 -

「宇宙戦艦ヤマト」を引き合いに出すまでもなく、未来兵器というと「レーザー砲」はつきものだ。意外と昔からさまざまな研究開発計画が走っているが、その割にはなかなかモノにならなかった。しかしようやく、実用化に近いところまで話が進んできている。

■現実的な用途に移ってきたレーザー兵器
レーザー兵器を使用して、何かを破壊できることは、すでに実証されている。その一例が、米ミサイル防衛局が手掛けたABL(Airborne Laser)計画。ボーイング747を改造して、機首にCOIL(Chemical Oxygen-Iodine Laser)という、メガワット級の出力を持つ化学レーザーを搭載した。これが2010年2月11日に、弾道ミサイル標的の破壊に成功した。

ところがその後、ABL計画は沙汰止みになった。ブースト段階(発射直後)の弾道ミサイルを撃ち落とすには、敵地の近くまで乗り込まなければならないという戦術上の問題。そして有毒の排気ガスを発生する化学レーザーを使用する問題。これらがABL実用化の足を引っ張ったといえる。

その後のレーザー兵器開発は、より地に足のついた方向に舵を切った。半導体レーザーやファイバー・レーザーなど電力で作動するものを使い、出力不足は複数のレーザーを束ねて対処する。

ターゲットも、現実的に対処可能、かつ喫緊のものに移った。それが、砲弾、地対地ロケット、そして小型無人機。いずれも安価で、敵対勢力は気兼ねなく使用できる。安価なターゲットを撃ち落とすのに高価なミサイルを使うのは不経済極まりないが、電力で動作するレーザー兵器の運用経費は、ミサイルと比べてはるかに安い。また、レーザーは “光の速さ” で交戦するので、迅速に多数の目標を迎え撃つのに向くと考えられる。

写真:YAL-1。機首に突き出ているのがCOIL本体。機体の上下には、測距や目標の捕捉追尾に使用する補助のレーザーがついている。(Photo : USAF)


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■C-RAM用のレーザー兵器
砲弾や地対地ロケットの迎撃、すなわちC-RAM(Counter Rocket, Artillery and Mortar)を想定したレーザー兵器計画として、米陸軍のHEL TD(High Energy Laser Technology Demonstrator)があった。出力10kW級のソリッドステート・レーザーを大形軍用トラックHEMTT(Heavy Expanded Mobility Tactical Truck)に載せるもので、担当メーカーはボーイング。2008年に開発契約を受注して、2011年に機器の車載化を実施、その後にホワイトサンズ試験場で実証試験を実施した。

固定施設の防御を想定したHEL TDに対して、機動性を持たせたのがHEL MD(High Energy Laser Mobile Demonstrator)。2013年の11~12月にかけてホワイトサンズで実射試験を行い、90発を超える迫撃砲弾と若干の無人標的機を撃ち落とした。このときには出力10kW級のレーザーを使用したが、後にロッキード・マーティンが出力60kW級ファイバー・レーザーを開発したようだ。

イスラエルでは、C-RAM用迎撃ミサイル、アイアン・ドームを手掛けているラファエルが、出力100kW級のレーザー兵器、アイアン・ビームを開発している。これは2024年には配備を開始できる見込み。そのラファエルがロッキード・マーティンと提携したため、アメリカにもアイアン・ビームないしはその派生品が入ってくるかも知れない。

写真:HEL TDのデモンストレーター。HEMTTの車体上にレーザーを載せた構成が分かる。(Photo : US Army)


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■C-UAS用のレーザー兵器
小型無人機の迎撃、つまりC-UAS(Counter Unmanned Aircraft System)を想定したのがHEL MTT(High Energy Laser Mobile Test Truck)。2016年4月にオクラホマ州のフォート・シルで試験を行い、マルチコプターの無力化に成功した。レーザーは出力10kWだが、こちらもその後、ロッキード・マーティンが60kW級のレーザーを開発した。

米陸軍はその後の2018年に、出力100kW級の車載式レーザー兵器を企図したHEL TVD(High Energy Laser Tactical Vehicle Demonstration)計画を立ち上げた。担当メーカーはダイネティクスとロッキード・マーティン。HEL TVDとの関連性は不明だが、ロッキード・マーティンは2023年1月に、出力50kW級のレーザー・DEIMOS(Directed Energy Interceptor for Maneuver Short-Range Air Defense System)による初の照射試験を実施したことを明らかにしている。想定用途は短距離防空。

このほか、米海兵隊も2019年6月に、C-UAS用途のレーザー兵器、CLaWS(Compact Laser Weapons System)のプロトタイプを受領している。
米空軍はHELWS(High Energy Laser Weapon System)計画の下、レイセオン・テクノロジーズにC-UAS用のレーザーを開発させている。海外派遣部隊に対する防護を考えているため、機動展開性を重視している点が特徴。2022年春にホワイトサンズで実施した試験で、9機の無人機を破壊した。
ドイツでは、ラインメタルが2012年に、出力50kW級のレーザー兵器を試した。厚さ15mmの鋼材を1,000mの距離から貫通したほか、標的機の迎撃も実施した。想定用途は防空やC-RAM。また、MBDAドイッチュラントが2015年6月に、出力10kWのレーザー4基を束ねて総出力40kWとしたものを使い、マルチコプターの破壊に成功した。

フランスでも2021年7月に、HELMA-P(High Energy Laser for Multiple Applications - Power)計画の下、レーザー兵器で無人機を迎撃する実証試験を実施した。2024年のパリ五輪までに実働可能とする計画だという。

写真上:HEL MDのデモンストレーター。構成はHEL TDと似ている。(Photo : US Army)
写真下:HEL MDによるレーザー照射を受けた標的機。(Photo : US Army)


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■艦載レーザー兵器いろいろ
1970年代から艦載レーザー兵器計画を走らせていた米海軍だが、現時点で実用に近いところまで進んでいるのは、比較的低出力のもの。

そのひとつがAN/SEQ-3 (XN-1) LaWS(Laser Weapon System)。ファイバー・レーザーを6基束ねたもので、出力30kW。駆逐艦「デューイ」や、揚陸艦を転用した遠征洋上基地「ポンス」に搭載して、中東に持ち込んだ実績がある。無人機や小艇への対処を想定している。

小型艇や無人機の破壊を企図した計画として、ロッキード・マーティンのMk.5 mod.0 HELIOS(High Energy Laser with Integrated Optical-dazzler with Surveillance)がある。出力60kW級のファイバー・レーザーを使用する。ODINよりも出力が大きいだけでなく、イージス戦闘システムから指令を受けて動作する点が特徴。まず、アーレイ・バーク級駆逐艦「プレブル」に搭載すると伝えられている。

米海軍に独特の構想が、センサーの妨害を企図したAN/SEQ-4 ODIN (Optical Dazzling Interdictor, Navy)。すでに複数のアーレイ・バーク級駆逐艦が搭載している。妨害だけなら低出力のレーザーでも用が足りる。

ドイツでは、ラインメタルが2016年に、MLG27艦載機関砲に出力10kWのレーザーを搭載して、無人機や小艇との交戦を想定した試験を実施したことがある。

写真上:米駆逐艦「デューイ」(DDG-105)の後甲板に仮設されたLaWS。後方に発電機らしきものが見える。(Photo : US Navy)
写真下:艦橋構造物の前面に、ファランクスCIWSに代えてODINを搭載したアーレイ・バーク級駆逐艦。(Photo : Koji Inoue)


■今後のレーザー兵器開発案件
もちろん、低出力で限定的な用途に甘んじているわけではない。米陸軍はゼネラル・アトミックスとボーイングに対して2021年10月に、出力300kW級のレーザー兵器を開発する契約を発注した。これは、米国防総省が進めているHELSI(High Energy Laser Scaling Initiative)構想の一環。HELSIについては、ノースロップ・グラマンやロッキード・マーティンも開発に取り組んでいるという。




自衛隊応援クラブ第33号のその他のページ》
・スペシャルインタビュー
 陸上自衛隊 第40代 第1師団長 陸将 兒玉恭幸
 任務を完遂せよ!
 https://dsc.or.jp/News/view/dsc/368

・リポート
 防衛力の抜本的強化7つの重視分野
 https://dsc.or.jp/News/view/dsc/369


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