福山先生の講演会「台湾・金門島旅行記」を開催しました。
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一般社団法人DSC
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令和5年7月14日にグランドヒル市ヶ谷において、福山隆先生を講師に迎え講演会を開催しました。
福山先生は自衛隊で培った専門知識と稀有な経験を有しており、先般、台湾・金門島を視察(令和5年3月21日~24日)した際の現地情勢から想定される台湾有事のシナリオと日本の対応を地政学・歴史を加えた独自の視点から鋭く分析した内容を「台湾・金門島旅行記」と題し、写真や地図等を豊富に取り入れ熱く語っていただきました。
[講師略歴]
防衛大(14期陸)、外務省安全保障課出向、韓国防衛駐在武官、第32普通科連隊長(地下鉄サリン事件対応)、陸幕調査第2課長(国外情報)、情報本部初代画像部長、富士教導団長などを歴任し陸将へ昇任、西部方面総監部幕僚長で退官。
退官後、ハーバード大学アジアセンター上級客員研究員、ダイコー株式会社取締役専務、広洋産業(株)顧問現在に至る。
以下、内容の要約です。
1.金門島の歴史的位置
国共内戦で国民党軍(蒋介石)が敗走、中京軍(毛沢東)が追撃する中、金門島でこの追撃を阻止し台湾が独立。
【裏話:追撃を阻止成功の影に根本元中将の功績あり】
根本中将は蒋介石からの恩義を感じた。
終戦時、日ソ不可侵条約を破棄して満州に侵攻したソ連軍から日本人4万人の命を守るべく、駐豪軍司令官根本中将はソ連軍に一撃をくらわせ間合いを取ったのち、国民党軍の傳作義と連携して4万人以上の命を救った。
・根本元中将の蒋介石への恩返し
金門島迄敗走した国民党軍に対し、退役した根本元中将は単身金門島にわたり作戦指導して9,000人余の中京軍をせん滅する一撃をくらわせ追撃を断念させ、台湾独立の基礎に寄与した。
2.今日の金門島
・防衛体制の完全放棄
水際障害の腐食・放置 : 防衛施設・陣地の放棄
・戦争遺跡の観光利用
海に接続する洞窟陣地 : 従軍慰安婦の施設まで観光の売り物に
・強で現実主義者の台湾人
不発弾を活用し刃物への加工・販売
・根本博元中将(義人)の事績の消去
台湾民衆を大弾圧した蒋介石と国民党軍を手助けした人物
国民党軍の無能を明るみに出す人物
3.中国側が金門島に侵攻しない理由
・世界から「十字砲火」を浴び外交や経済に深刻なダメージをうけ、得るものが少なく戦略的なメリットはほとんどない。
・中国は国共内戦が継続しているというフィクションの維持のため金門・媽祖の砲撃をしていたが、台湾も守る考えがない。
4.台湾で考えた台湾有事問題
・中国の対米戦略
中国への接近阻止・領域進入拒否(A2/AD:Anti Access/Area Denial)戦略
「空母キラー」「グァムキラー」
対艦弾道ミサイルDF-21Dで米空母を一瞬にして粉砕
・米国の対中戦略
エアシーバトル構想
・圧倒的に強力な米海空軍戦力の活用し中国軍戦略を相殺
オフショアコントロール戦略
・制空海権でホルムズ海峡、マラッカ海峡、バシー海峡、ロンボク海峡等を機雷封鎖
海洋圧迫戦略(MP:Maritime Pressure Strategy)
・米陸軍、海兵隊を第一列島戦に配置、中距離核戦力(INF)を配備
5.米国のMP戦略
・MP戦略を採用した日中戦争
日台と中国の戦いは米中戦争の可能性が高く、中国にとってウクライナ戦争よりもはるかに困難
・日本にとっての米国のMP戦略の意義
<評価できる面>
アメリカによる日本領土・領空・領海の防衛の意図・意志が鮮明。
・中国に対する抑止力が期待できる。
<評価できない面>
国益に起因する思惑の違いで擦り合わせが困難。
日本、台湾、フィリピンなどが主戦場。
主導権は米国に、日本がタイムリーな停戦交渉を行うことは至難。
6.台湾旅行中に聞いた情報
A氏:台湾軍上層部は「外省人」で中国と気脈
・「外省人」は、蒋介石と共に中国大陸から台湾に来た。
・2024年に予定の総統選挙で台湾独立派の与党民進党が敗れれば、中国と気脈を通じた軍部とともに、一挙に無血クーデターにより、台湾は中国の陣営に取り込まれる可能性。
B氏:米中の水面下での握手
・バイデン政権は台湾に肩入れしているように装っているが実は水面下では中国とは緊密な関係を維持。
・現在の米軍の戦力では中国と戦争をしても勝てる保証はない。
・中国は、アジアから米軍を追い出すことを執拗に追及し、日本に手痛い打撃を加えることを基本戦略に。
C氏(ジャーナリスト):親中派台湾人の存在
・台湾人は強か、アメリカと中共を天秤に。中国と台湾とは、情報も含めていろいろ裏でつながる部分もあり、日本人の目には見えない部分も多い。昔は李登輝と江沢民の間にパイプがあったとも。
・台湾有事では、台湾軍の一部が中国に内応して台北の一部を占拠し、「新政権」を名乗り、中共がいち早くこれを「台湾省」として承認するシナリオも。ロシア等がこれを承認し既成事実化を図るものとみられる。
7.台湾の今後についての五つのシナリオ
・シナリオ1:現状のまま推移
・シナリオ2:選挙などで中国が台湾併合(香港の成功例)
・シナリオ3:台湾軍部のクーデター・内応を利用した台湾併合
・シナリオ4:中国軍の台湾侵攻
4-1:米国が参戦、米中戦争勃発、第三次世界大戦にエスカレートする可能性
4-2:日本・台湾が中国と代理・限定戦争を実施
・シナリオ5:南シナ海の封鎖
8.シナリオ4:中国軍の台湾侵攻についての考察
①台湾有事とウクライナ戦争の違い
・陸続きではなく海で隔絶
・制海空権が無ければ危うい
・米国が軍事介入するためには、日本の支援(在日米軍基地のフル使用)が不可欠
・長期戦は困難──日台の〝耐乏力〟の差
・中国の脅威の主体はミサイル攻撃――ミサイル防衛が重要
・米中戦争にエスカレートする可能性が「ウ」より高い──中国侵攻の敷居(抑止作用)は高い
②米戦略国際問題研究所の机上演習(その1)
・中国軍が2026年に台湾へ上陸作戦を実行すると想定
・前提条件
台湾が中国に強く抵抗
米軍が即座に参戦
日本が米軍による国内基地の使用を容認など
・3回の演習のうち2回で中国軍は台湾の大都市を制圧できず、物資補給が10日間で途絶
・残る1回の演習では中国軍が台湾南部に上陸して台南の港湾を支配したが、米軍の空爆で港湾は使えなくなり3週間ほどで態勢を維持できなくなり「中国に不利な膠着状態に」と分析
・米軍・自衛隊の艦船・航空機に甚大な損害
米国・軍が参戦するうえで「日本の台湾有事参戦が不可欠」
③「シナリオ4:中国軍の台湾侵攻」の様相(その2)
・米軍:空母機動隊5隊、水上戦闘艦60隻、戦闘機1,000機、輸送機・給油機1,200機、爆撃機40機を準備
・台湾:中国軍上陸予想海岸十数ヶ所を要塞化。
・台湾:中国内陸の三峡ダムを破壊できる射程1,000~1,200キロの地上発射型巡航ミサイル「雄昇」を配備。
・中国:制海権や制空権を確保できるか流動的
沖縄戦では日本軍11万人に対し米軍53万人投入、完全な制海・空権を確保したうえで、約3ヵ月かかった。
台湾の面積は沖縄の15倍もある、制海権・制空権確保だけでも半年、必要兵力は100万人、準備には2年かかる。
9.玉沢徳一郎(元防衛庁長官)が台湾で講演
7月3日、玉沢徳一郎元防衛庁長官は台湾「日台交流協会」で講演し次のよう述べた。
・「中国が台湾に侵攻するには少なくとも130万人から160万人の兵力が必要、その兵員を輸送する能力がない(強襲艦は8隻)。
・また中国は「食糧安全保障の問題」に直面しており、台湾侵攻には総合的な兵站を含む能力を欠いている。
・「中国は以前、輸入穀物の多くをロシアとウクライナから得ていた。こうした食料輸入もロシアのウクライナ侵攻によって脅かされた。中国の人口の60%が豚肉を食べているが、豚肉1kgの生産には約5kgの穀物が必要である。戦争のイロハとして、豊富な食糧が必要である。もし中国が戦争を始めれば、直ちに食糧不足に直面するだろう。「腹が減っては戦はできぬ」。
10.習近平の「食糧安全保障」破綻
・ロシアのウクライナ侵攻で14億人の食い扶持確保は困難に
・トウモロコシの大輸入先はウクライナ(2021年に824万トン)
戦争で供給が危ぶまれる事態に
・中国のトウモロコシの最大の輸入先は米国(1983万トン)
・中国では、昨年からの「退林還耕」政策、政府の強制で花畑や緑地帯が耕地に
・中国共産党の強制政策は失敗の歴史──毛沢東は『大躍進政策(鉄鋼増産)』大失敗、餓死・粛清で2千~5千万人死亡。
11.アメリカ軍の中国と同盟国に対する情報戦
<ケース1>台湾有事で「厳しい見方」を流布する
・利点:予算獲得上国内で有利な環境を作る。
同盟国に国防費の増額を要求できる。
・不利点:同盟国などを不安に陥れる。
中国に自信を与え、台湾侵攻を助長する。
<ケース2>台湾有事で「有利な見方」を流布する
ケース1と真逆の効果
12.台湾有事に日本・人が台湾に肩入れしようと思う背景「理」と「情」
・「理」
台湾が中国の支配下に陥れば、石油の輸入コストが高騰し、わが国の経済が壊滅的な打撃を被る。
・「情」
李登輝総統、金美鈴氏、蔡焜燦氏、テレサ・テンの対日工作(真心)が成功――日本人を台湾シンパにするうえで大きな成果を上げた。
蔡氏の『台湾人と日本精神』(小学館)は、日本の統治が台湾社会の発展にどれほどのプラスの面を与えたかを力説し、「日本人よ、胸を張りなさい」と日本人を励ました。戦後の自虐史観の中で、韓国の対日政策と真逆。
13.日本外交に対する提言
・二国間関係は、李登輝氏、金美鈴氏、蔡焜燦などの個人的な力が思わぬ成果・威力を生み出す。外務省の「役人」がやる外交とは別次元の、個人的な信念に基づく長期にわたるひたむきな努力が必要な分野がある。
・日本外交についての提案
①外務省の独善的な「外交の一元化」を止め、官民総力を挙げての外交を展開すべき
イスラエルの米国における「イスラエル・ロビーとアメリカの外交政」
外務省だけでは無力・無能――ハーバード大学の東海・独島の地図
②キャリア外交官に代え民間人を大使に登用を(米国の例)
14.台湾有事生起の可能性
・日本(勿論台湾も)にとってシナリオ1、次いでシナリオ2、シナリオ3、シナリオ4の順であるのは論を待たない。
・「シナリオ1:現状維持」で推移する公算が大であると思料。
・日本・台湾にとって戦争を回避することが最も重要。さもなければ、米中の覇権争いの道具・犠牲にされるだけだ。
・注意を要するシナリオ5(南シナ海の封鎖)
2025年に台湾の原子力発電所が40年を超えて稼働停止。天然ガスの備蓄は7日分だけ。南シナ海を封鎖するだけで台湾は干上がってしまう。原発の更新が不可欠。
15.日本の台湾有事対処は如何にあるべきか?
・台湾有事で欧米が勧める「自由民主主義」よりも、「国民の生命・財産の保全」が優先されるべき。米国に煽られて台湾防衛にのめり込むのは馬鹿げた話
・中国の台湾侵攻時の情勢は、もはや「パクスアメリカーナの時代からパクスシニカの時代」であることを銘記すべし。日本はその際「生贄」にならぬことが肝要。
・大東亜戦争の敗戦で、日本はアメリカの支配体制下になり、経済発展を遂げ、平和を享受できた。パクスシニカの時代になれば中国の影響が強まることは避けられないが、戦争さえ回避できれば、マッカーサーの統治よりは、ましなものかもしれない。幸いなことに、日本は中国とは海を隔てている、国境を隣接していながらも、中国からの一定の独立を果たしている北朝鮮の対中政策が参考になろう。
・ただ、中国の将来にも暗雲が立ち込め始めた。米国主導の対中国経済制裁と人口オーナスなどにより、中国は鄧小平の改革改造以来続いてきた「右肩上がり」の経済発展から「右肩下がり」に転じ始めている。これにより、中国は軍事投資もスローダウンせざるを得ないが、習近平が軍拡を継続するならば、中国はソ連崩壊の轍を踏むことになろう。
福山先生の講演会「台湾・金門島旅行記」を開催 金門島 台湾
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